モチベーションマネージメント〔7〕

従業員を魅了する社長の資質

私が会社員をしていた頃、現場のマネージャーとして赴任して来られた上司のことを思い出すような記述がありましたので紹介します。

 ・・・・ その人が持っている人間性や哲学が「なるほどな」というものがなかったら人はついて来ません。つまり、従業員から信用されるということは、金や地位があるから信用されるのでありません。「この人は人間として立派だ。我々を騙したり裏切ったりするような人ではない。この人が言うことなら信じてついて行こう。」と思わせる人間性なのです。

 それはまず、「この社長とならどんな苦労をしても惜しくない」と思わせるような人間関係を作ることが第一番です。例えば酒を飲みながら飯を食う、それは何も高い料理である必要はありません。安い肉と野菜を買ってきて、「一緒に食おうやないか。」と、一月に一度でもいいのです。自分の家族とご飯を食べるより、従業員とごはんを食べるのが楽しいくらいにならなければと思います。そうやって従業員を魅了するのです。飯で釣れというのではなくて、一生懸命そうすることで、「自分を大事にしてくれる。」という社長の人間性に従業員は心を打たれるのです。 ・・・・ (京セラ 稲盛和夫氏講演集より)

 かつての私のマネージャーは我々部下の話をよく聞いてくれました。仕事は毎日が問題解決の連続ですが、マネージャーは、「この観点からは解決できないのだろうか。」 と色々な見方を提示して私に考えさせました。解決策が見つかったときには自分のことのように一緒に喜んでくれました。一方では、マネージャーは上位の取締役に対しては、我々のためにと思うところをはっきり言っていました。このようなマネージャーの一生懸命な姿は、私に「この人のために仕事をしよう。」とまで思わせたのです。

 おそらく、究極のモチベーションは人間性、信頼性です。従業員を将棋の駒のように使っていたのでは、モチベーションは生まれることはありません。社長はもっと従業員を信頼していいのではないかと思います。こちらが信頼しなければ、相手も信頼しません。

 「 我々のリーダーは、自分を犠牲にして部下のために仕事をしてくれているのだ。」と従業員が認識すれば、従業員は自ら進んで「 リーダーのために仕事をするのだ。」という意識に変わるでしょう。しかし、「我々のリーダーは、私たちを犠牲にして、お金を儲けている。」となれば従業員のモチベーションは下がる一方でしょう。

 当時、全国の6割の学校の卒業式で歌われていたという定番曲 「旅立ちの日に」 の中に 「・・・・懐かしい友の声、ふと蘇(よみがえ)る、意味のない諍い(いさかい)に泣いたあの時、心通った嬉しさに抱き合った日よ、みんな過ぎたけれど、思い出強く抱いて、勇気を翼に込めて、希望の風に乗り、この広い大空に、夢を託して、今別れの時・・・・」という歌詞があります。中学生や高校生の頃、私たちが感じた「心が通う嬉しさ」を往時のものとせずに、今の社会人になってからも味わいたいと思います。

やめない社員研究所  原川 修一