月別アーカイブ: 2020年7月

モチベーションマネージメント〔6〕

(前回モチベーションマネージメント〔5〕からの続きです。)

(2) モチベーションを下げてしまった信玄の遺言

義信の自害後、信玄は後継者として、側室由布姫(ゆうひめ)の子、勝頼を選びました。他にふさわしい男児がいなかったこともあるようです。信玄は枕元で勝頼ら家臣に遺言を告げました。しかし、その内容がよくなかったのです。

「・・・・跡継ぎについては、勝頼の子、信勝が16歳になったら家督を譲る。それまでは代理の当主を勝頼に申しつける。但し、勝頼は風林火山の旗などを持ってはいけない・・・・」(跡継ぎは自分の子である勝頼にはさせない。孫の信勝に継がせる。但し、孫はまだ小さいから16歳になるまでは勝頼が代理で跡を継ぐこと。また、勝頼は武田家累代の旗を持つことは許さない。)

信玄は諏訪家の当主(勝頼のこと)が、武田家の当主になることに対する反対論を抑えこむために、勝頼を「代理の当主」 としたのです。このような理由があったにしても、信玄が勝頼よりも、まだ赤子であった信勝を跡継ぎにしたことは、勝頼にとってはモチベーションが大いに下がることだったのです。

上司や社長から信頼されないことは最大のモチベーションダウンにつながります。勝頼は社長である信玄から信頼されていなかったことになります。勝頼にとってみれば、信玄が早くから後継者育成をしておらず、突然の信玄の死により、信玄という後ろ盾がないまま、勝頼はもっとも基本的な「後継者という地位の確立」から取り組まねばならなかったのです。そのために、その後、勝頼は「代理の当主」であることを払拭するために無駄な強がりすることになります。結果的にはそこを織田信長から見破られて失敗を重ね、ついには滅亡したのでした。

( 参考文献   武田家滅亡に学ぶ事業承継 北見昌朗著 )

やめない社員研究所  原川 修一

モチベーションマネージメント〔5〕

武田信玄の不幸な出来事

 NHK大河ドラマ 「風林火山」~天才軍師・山本勘助 を見られたでしょうか。武田信玄は上杉謙信との川中島の4回にも及ぶ戦いでもその雌雄は決せず、お互いに疲弊したまま織田信長が天下人になってゆきます。テレビでは第4回目の川中島の合戦で、山本勘助が亡くなるところで終わっていますが、その後、信玄は跡継ぎ対策に失敗し、信玄の側室の子、武田勝頼で滅亡してしまいます。

( 参考文献  武田家滅亡に学ぶ事業承継 北見昌朗著 )

(1) 親を追放したが、自分の子も自害させてしまった

武田信玄の父、信虎は次男の信繁(のぶしげ)をかわいがり、長男の信玄を疎んじたために、信玄と対立して、信玄と家臣団によって駿河に追放されました。 家督をついだ信玄には、正室三条夫人との間に嫡男義信が生まれます。義信には、その時に同盟であった今川義元の娘を正室に迎えます。

しかし、その後、勢力範囲の移り変わりにより、信玄は今川義元との同盟関係を破棄して織田信長と同盟を結ぼうとしました。義信は、妻の実家である今川義元を裏切ることに反発して、父信玄の暗殺を計画したのです。しかし暗殺計画は発覚し、甲府の東光寺に幽閉され、2年後30歳で自害することになります。

父信虎と不和であった信玄は、またも、同じように自分の子義信とも不和になりました。事の良し悪しは別にしても、自分のしたことは、同じようにして、また、次の世代へ必ず跳ね返ってくるものだ(因果応報)と肝に銘じておき、それを考えた上で現在の行動を判断することが必要なのでしょう。(次回に続く)

やめない社員研究所  原川 修一

これからの人事評価制度

弊害の多い「成果主義」

成果主義や業績主義などと呼ばれている考え方に基づく人事評価の方法(成果や業績を上げた人を評価するということ)には、次のようなさまざまな危険が潜んでいます。

・「社員は個人主義になる」 

→ 成果を上げた個人を評価しますので、成果以外の会社にとってよいこと、部下の教育や職場内を協力的な雰囲気にすることなどはおろそかになります。その従業員にとっては、如何に、他の従業員を成果で引き離し、相対的に有利に評価されるかが重要になってきます。自分が評価されることで、他の従業員が相対的に評価が下がることに対してのみ、集中することになります。

・「短期の成果しか考えなくなる」

 → 評価対象期間は賞与評価であれば半年、昇給であれば1年で、長期的なスパンで成果を見ることがなくなります。1年超えて成果を出すような業務はやらなくなります。

・「目標を低く設定して達成度を高くしようとする」 

→ 目標を達成するために、目標を低く設定するようになります。従業員のレベルは下がり、会社のレベルも下がります。

・「人材が育たない」 

→ 成果を上げるためには、従業員のレベルを上げる必要がありますが、従業員の教育に力を入れても評価されません。

 成果主義そのものが悪であるかの印象を受けますが、原理的に考えて、成果に基づいて評価し、処遇することには異論はないはずです。企業が生き残り、発展するためには成果を出さなければならないのですから。

 しかしながら、現在、成果主義として導入、運用されている方法は、「個人責任主義」に傾き過ぎていることから、さまざまな「ひずみ」が出ています。この個人責任主義を従業員個人にまで、能力的準備がない人や精神的準備のない人に適用してしまうの得策ではないようです。寧ろ、全体責任主義とすべきと思われます。

やめない社員研究所  原川 修一

これからの人事評価制度

《 何年経っても優秀な人は優秀、ダメな人はダメの評価で意味があるのか 》

ここに10人の社員の会社があるとします。その会社に評価制度を導入しました。この評価制度は、優秀な社員とダメな社員を選別し、その結果によって給与を決めたり昇格させたりすることが目的です。

さて、この評価制度を5年間運用したら、その会社の社員はどのように変わっているでしょうか。たぶん、もともと優秀だった人は相変わらず良い業績を残しているでしょう。しかし、ダメな社員だった人は優秀な社員に変身しているでしょうか。たぶんこの人は競争することを諦めて、低い順位に甘んじる選択をしているだろうと推測できます。

5年経っても優秀な人は優秀で、ダメな社員はダメのままなので、次第に評価制度の意味がなくなってしまい、ついには評価制度そのものをやめてしまうことになります。

ほとんどの場合、ダメな社員は評価制度を導入してもその評価制度が「育てるしくみ」となっていない場合、やはり相対的にはダメなのです。

やめない社員研究所   原川 修一

モチベーションマネージメント〔4〕

結果主義よりもプロセス重視

(2) 心が荒(すさ)んでしまわないように

鍵山氏は、「今は、何かというと成果主義、結果主義が横行している。しかし、結果主義は、“いつも比べる世界”で、多いとか少ないとか、勝ったか負けたかの世界で、心のやすらぎが全くなく、例え、仮に1位になったにしても、いつ落ちるかわからない、いつ失うかわからないという不安がある世界である。年中“こころの休まる”ヒマがない。

特に私のように人と争ったら必ず負けるというのは、自分でよく知っているので、争わなくてもいい世界というものを追求してきた。だから、結果主義よりも、プロセス主義を重視している。」とおっしゃっています。

最近の皆さんの家庭では夫婦喧嘩が多くはないですか。最近、親子喧嘩が多くはないですか。

会社や仕事のプレッシャーを帰宅時に断ち切れないままに、家庭に持ち込みつつ、つい、なんら仕事に関係のない家族に八つ当たりをしてしまうことはありませんか。

本来ならば、会社は社員に、仕事を一生懸命にやってもらいたくて始めた成果主義は、一生懸命やって結果の出た人をそれなりに評価しようと思って始めた制度です。しかしながら、結果ばかりが強調され過ぎると、その意図はないにしても家族の絆まで断ち切っているのかもしれません。

更に、鍵山氏は、「結果主義は途中を無視しがちである。即ち、手段や方法を選ばないで、極端に言うと、結果さえよければ何をやってもよいということになり、やっていることに誠意が感じられない。」 「最近は、有名な立派な会社が、結果を出すためには手段を選ばす、人を騙すようなことを平気でやっている。人間は最初のうちは、人を騙すと、心が荒んで、騙したという呵責の念にかられるものだが、だんだん慣れてきてしまうことは恐ろしいことだ。」と言われています。そこで、プロセス主義をとるべきとの思いを強くされています。

おそらく、鍵山氏のプロセス主義の裏側には、「プロセスがよければ必ず成果が出る。」という信念があるからだと思います。長い目で見たときにプロセスが良くなければ、成果主義で出たその結果は、その場限りのものでしかないでしょう。このような視点も入れて、社員の人事評価はどうあるべきかを考える必要があります。

やめない社員研究所   原川 修一

モチベーションマネージメント〔3〕

結果主義よりもプロセス重視

 先日、車のエンジンオイル交換のためにイエローハットに行きました。待っている間に待合所にあった本に目がとまりました。清掃を基本にした経営を行って、今や従業員1,300人、年商約600億円の自動車部品の販売会社の創業者である鍵山秀三郎氏の講演集です。

(1) 率先垂範

 鍵山氏は会社の中、会社の周辺、道路、トイレをきれいにし、お客様を訪問する際も、きれいな車で訪問することにしていました。社員はなかなか掃除に関心を示さなくて、最初の10年間は社長ひとりが掃除をやっている状況でした。10年を越すくらいからぼつぼつと社員の中から参加者が現れて、まず車がきれいになり交通事故が起きなくなりました。さらに5年たって道路の掃除に、また、ぼつぼつと参加者が現れて、皆が参加するようになったのは創業後25年経ってからといいます。

 私のことに置き換えてみても、まず10年を独りで続けたというのは驚くべきことです。社長が半年、もしくは1年やっても、社員がやらなければ、「いつまで率先垂範しても、社員がやらないならしょうがない。」といって諦めてしまうでしょう。しかし、鍵山氏はまずは10年間も独りで、また、社員にも強制せずに続けたのです。

 鍵山氏の例から思うに、率先垂範を高々1年くらいで諦めてはいけないのです。残業時間を減らすための週1回のノー残業ディー、社員の改善意欲を引き出す改善提案活動やQCサークル活動、清掃活動などを、社員がついて来ないからといって、1年や2年くらいで止めてはいけないのです。せめて10年やり続けなければ社内には定着しないということなのでしょう。社長にはたいへんなエネルギーが必要なことがわかります。社風つくりは10年単位の、確固とした信念にもとづいた、こうしたコツコツとした活動の積み重ねでしか成し得ないのです。

やめない社員研究所 原川 修一

モチベーションマネージメント〔2〕

前回モチベーションマネージメントでは組織にすると 1+1=3になることを説明しました。ここでは、どうやったら1+1=3になるのかを説明します。

〔2〕 「1+1=3」 になるために

 それは従業員の得意分野を把握して、そのレベルを高めることです。逆に、従業員の不得手分野は、基本的には、組織の強さに無関係になります。寧ろ、無関係にすべきです。得手分野、つまり強みのみが組織としての活力を高めています。強みのみが組織の意義を高めます。弱みをなくしたからと言って何も生まれません。弱みをなくすことにエネルギーを注ぐことよりも、強みを生かすことにエネルギーを費やすべきであることがわかると思います。(勿論、勤務態度や仕事に対する姿勢などは常識的なレベルであること。)

したがって社長の任務は人を変えることではなくて、部下の持つ強み、意欲、活力を総動員することで組織全体の能力を向上させることと言えます。

また、このことは社長にのみに言えることではなくて、上司たるものは部下の弱みに焦点をあわせるのではなくて、組織に対して部下一人ひとりの強みを可能な限り生かす責任があるのです。会社は、一人ひとりの部下に対して、その弱みや制約に関係なく、部下の強みをとおして業務を成し遂げられるようにすることが求められています。

 また、人事評価を「規律性」「 積極性」などの側面に加えて、「企画力」 「指導力」などと多面的な側面で見ようとすると、結局は、その部下の「強さ」が「弱み」に相殺されてしまうことは注意すべきことです。せっかく部下が強い面を持っていて業務で力を発揮したにしても、半期に一度の人事評価においては、部下を多面的にみる人事考課シートを使ってしまうと、その強みが弱みに打ち消されて、部下の評価は「普通」になってしまいます。

正義は必ず認められる

NASAのスペースシャトル、チャレンジャー号の事故についてテレビ番組を見ました。

1986年1月28日の打ち上げで、ロケットエンジンの筐体をつなぐためのOリング(ゴム製)は、寒さで固くなり(柔軟性がなくなり)シールできなくなり、ロケットエンジン内部からガスが噴出して、横にある燃料タンクを破壊し、爆発炎上、スペースシャトルは粉々になりました。

前回の打ち上げで回収されたロケットエンジン(リサイクルして使う)の点検をしていたエンジニアは、シールの破損に気づきました。その破損の原因は打ち上げ時の気温が低いことを突き止めました。

エンジニアは打ち上げ延期を申し出ましたが、上層部はもみ消し、結局、安全よりもスケジュールを優先し、宇宙パイロット7人の尊い命が奪われました。

事故後の事故調査委員会で、エンジニアは、「事故の前に安全性が確保できないことを上層部に進言したが、認められなかった。」ことを証言しました。

 エンジニアは一度は内部告発をもみ消されましたが、必ず正義は勝ち、不正や虚偽、嘘は結局は陽の光にさらされてしまうということです。

モチベーションマネージメント

モチベーションマネージメント

会社経営の中では従業員のモチベーションを高めることが重要です。 結局、会社は人から成り立っており、最終的には人が会社を動かしています。従業員のモチベーション(働く動機や意欲)を高めるために、色々な側面から見て行きたいと思います。

〔1〕 組織にすると、何故1+1=3 になるのか

「会社は組織である。」 なぜ、会社を組織にするのでしょうか。 個人の1をそれぞれ足して「1+1=2」ならば組織など作らずに個人でやっていればよいはずです。個人の1と個人の1を足して「1+1=3」 にできるから組織を作るのです。

では、何故3になるのでしょうか。逆に言うと、3にしなければ組織にする意味がないことになります。

個人にはそれぞれに得手分野と不得手分野があります。営業が得意な人もいれば、逆に、営業のように人と接する機会が多いことよりも経理などのように数値と向き合うほうが得意な人もいるはずです。あるいは、機械などの設計が得意な人もいます。

個人では得手分野と不得手分野を総合して1点の人(得手分野2点、普通分野1点、不得手分野-2点と仮定すると、得手と不得手が相殺して、普通分野の1点)がいたとします。

 組織にすると、各人は得手分野を自分の業務とすることができますので、例えば、4人の個人が集まったときには4点しかなかったものが、組織体にすること8点(2点×4=8点)になることになります。組織にすることで各個人が行っていた2倍の仕事ができることになります。このように組織体を形成すると業務の分担ができますので、個人で行うよりも多くの力を発揮することができます。

 ちなみに、

 1+1=2 は算数、1+1=3 は上述のとおり組織、それでは、1+1=1 は何のことでしょう? 

 答え ⇒ 企業の吸収合併です。A社をB社が吸収合併してB社になる。2社あったものが1社になります。

 

人事評価制度をやめてしまう理由 その4

評価項目の抽象性 ~ わかりづらいこと

評価の項目や評価の着眼点が抽象的で、評価する側も、評価される側も、何をどう評価すればよいのかわかりません。

 評価者は波風を立てないように普通評価(SABCDの5段階評価のうち、真ん中のC評価)にしてしまいます。この半年はじぶんなりに頑張ったと思っている社員は、その評価結果やボーナス額を見たときにがっかりしてしまいます。「 こんなに頑張って、会社の売上は上がったのに、ボーナスは去年と同じなのか・・・・ 」 本当に頑張った社員は正当に評価してくれないと不満になったり、退職してしまいます。

評価の着眼点などが抽象的になると、評価制度そのものが機能しなくなり、制度をやめてしまいます。