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従業員を育てる人事評価制度の構築方法〔1〕

1.プロジェクトで進める人事制度策定作業

「従業員を育てる人事評価制度」は、プロジェクトを編成して行います。その手順は次の通りです。

① メンバーの決定

メンバーは会社の大きさ、部門数などによりますが、5~10人程度が適切です。部門の管理者またはNo.2の人はメンバーに選定します。また、プロジェクトリーダーに社長はなりません。

② 人事制度の意義を確認

フレームワークという手法を用いて誰のための制度作りなのか、なぜ人事制度が必要なのか、どういう人事評価制度を求めているのかを、共通理解します。A0サイズの紙とカードを使ってまとめます。

③ 資格等級制度作り

等級数を決定し(通常、6等級とします。)そして部門ごと、等級別に仕事の内容を等級に振り分けます。これを「仕事しらべ」と呼んでいます。A0サイズの紙とカードを使って作成します。

④ 人事評価制度作り

次に評価制度の基本となる評価要素を決定します。「期待される従業員像」のアンケートなどから、「㋐成果につながる行動と努力」、「㋑勤務態度」、「㋒能力向上につながる行動と努力」の3項目ごとに評価要素を決定し、この項目に基づいて評価を行います。この作業は「評価の着眼点作り」と呼んでおり、高い業績をあげるためにどう行動すべきか、というコンピテンシーを決めることとなります。

⑤ 給与制度作り

等級と評価に基づいて予算内で昇給額を決定する仕組み作りです。パソコンソフトを活用します。

ここでは、給与体系の見直しも行います。基本給だけの会社はそのままですが、手当が多い会社では手当の見直し、統合や廃止を行っています。歩合給的な手当なども廃止の方向で見直します。(歩合給は従業員本人の給与を上げるためだけに活動する人が多く、会社のレベルアップや教育、会社の雰囲気づくりなどに関心を示さないようになるからです。)

⑥ 評価者訓練

評価者に人事制度を理解してもらい、かつ評価の実践的教育を行います。

⑦ パソコンソフトの設定や使い方、人事評価制度の運用の説明

 ご提供するパソコンソフト(モデル給与設定用のソフトと実際の評価を入れた昇給額と賞与の計算ソフト)の使い方や、社員ノートを使った人事評価制度の運用、更には、昇給原資の計算、賞与原資の計算方法などを、社長様と一緒に実際に行います。

⑦社内説明会の開催

やめない社員研究所  原川 修一

モチベーションマネージメント〔9〕

(2) 衛生要因 =人々に不満を起こさせる要因

次のことは不満の種になり、それが充足されたにしてもモチベーションが高まらないとされています。寧ろ充足されて当然と感じるのです。逆に充足されないと、不満足感に作用してしまうので注意が必要です。

  • 会社の方針・管理

会社の経営方針、管理体制や組織構造などを社員に充分に説明して、理解を得るように努めることが必要となります。会社の基本となる経営方針を社員が理解しなかったら、モチベーションが高まらないどころか反発してしまうということです。

  • 監督者との関係

上司との関係がうまくいかないとモチベーションが下がります。社内のコミュニケーション、上司と部下との信頼関係が重要となります。

  • 労働条件・給与

給与が高いことはモチベーションの高揚には単純にはつながらないということです。給与の影響よりも、上述した「動機つけ要因」の方がモチベーションは高まるということです。しかし、給与はある一定レベル(業界での標準や熊本県地域の平均値など)よりも低いとモチベーションの低下になります。

  • 同僚との関係

監督者との関係と同じく、同僚との関係もうまくいかないとモチベーションは低下します。要点は社内の人間関係を如何にうまくするのかでしょう。そして、結果的には、社員の人間レベルの向上、即ち社員教育・人間教育が必要になると思われます。

  • 個人生活

個人の生活が充足しないとモチベーションは高まりません。朝出勤前に夫婦喧嘩して出社した経験のある人ならわかるでしょう。朝の不愉快さの余波が仕事にも影響を与えるのです。「個人の生活」は、「会社の仕事」があるからこそ成り立っているとの考え方もありますが、必ずしも真ではないと思われます。

個人の生活が充実していてはじめて、会社の業務をモチベーションを持って進めることができるともいえます。会社の仕事と個人生活は、車の両輪と考えます。

  • 部下との関係

これは、監督者や同僚との関係と同じでしょう。

身分保障

身分保障のひとつは雇用の安定です。期間の定めのある雇用契約(パートタイマー)では、雇用期間が終わって生活の糧を失うことがわかっているのならばモチベーションは高まらないでしょう。「どうせ辞めるのだから。」 という気持ちが起こります。正社員も同じで会社の売上高が減少していて、身分保障が揺らいでいつリストラにあうのかわからないのであれば、当然モチベーションは下がるでしょう。

以上のことは充足して当然という項目です。充足されないと、逆に不満が急激に増加してしまうということです。これらはやる気にはつながりません。

衛生要因を克服することは当然のこととして、前回述べた「動機づけ要因」を強めていくことが重要です。

やめない社員研究所  原川 修一

モチベーションマネージメント〔8〕

動機つけ要因・衛生要因

 アメリカのウエスタンリザーブ大学の心理学教授ハーツバーグ(1923年生まれ)は、組織で働いている人々が、仕事を通じてどのような欲求を充足しようとしているのかを研究しました。どのような要因が満足感の源泉(動機つけ要因)であり、どのような要因が不満足の源泉(衛生要因)となるかを明らかにしたのです。

(1) 動機づけ要因 =人々に満足を与える要因

少しでも満足感が増せばモチベーションが高まる要因となります。主として満足感に作用し、不満足感には作用しません。

① 達成 

業務を達成することは、その達成感によってモチベーションが高まります。達成感は充足感や自信にもつながります。

② 承認

上司や社長から承認されていると感じることは、モチベーションが高まることにつながります。前々回でアップした武田勝頼は社長である信玄の承認を得ることができなかったために、逆に強がってしまい滅亡へ突き進んでしまいました。

③ 仕事そのもの

仕事がなんらかの社会貢献している、自分は「意義のある仕事をしているんだ。」と意識することはモチベーションを高めます。そのためには、会社の事業の意義を経営方針に謳い、会社の業務の社会的意義を社員に理解させる必要があります。

④ 責任

責任を持たされて、その半面、自由裁量の幅を持たされることは、モチベーションが高まることにつながります。

⑤ 昇進

昇進するということは、自分の仕事が認められたということであり、上記の「承認」と同じくモチベーションが高まります。

昇給も同じような効果があります。自分のやっている仕事が認められたということです。経営が苦しいからと言って、この10年間昇給なしという会社があるとすると社員は夢が持てません。認めるということは、その額の多寡ではなくて、昇給したかどうかなのです。

⑥ 成長

会社の仕事をすることが、「自分の成長」 につながっていると意識すると、モチベーションが高まります。それは仕事の内容であり、研修会参加であったりします。そして、「この会社にいれば自分は成長できる。」と認識すれば定着率も高まります。

就職したての若い人は、3年経つと3割は辞めて行きます。「この会社にいても、自分は成長しないな。」と会社を見限って辞めることが多いようです。

 以上のことが行われると、モチベーションは高まるとのハーツバーグ研究結果は納得できることです。

実際には、例えば、「承認」するということは、仕事をしてもらったら「ありがとう。」「お疲れ様、君はいつも頑張っているね。」といった褒めて認めるなどの単純なことから始めるのです。

昔は、「叱って伸ばすべきだと。」いう育て方をした上司がいましたが、それは、部下となる相手の性格を充分過ぎるほど見てからすべきであって、叱られて逆に奮起する部下は果たしてどれだけいるでしょうか。

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モチベーションマネージメント〔7〕

従業員を魅了する社長の資質

私が会社員をしていた頃、現場のマネージャーとして赴任して来られた上司のことを思い出すような記述がありましたので紹介します。

 ・・・・ その人が持っている人間性や哲学が「なるほどな」というものがなかったら人はついて来ません。つまり、従業員から信用されるということは、金や地位があるから信用されるのでありません。「この人は人間として立派だ。我々を騙したり裏切ったりするような人ではない。この人が言うことなら信じてついて行こう。」と思わせる人間性なのです。

 それはまず、「この社長とならどんな苦労をしても惜しくない」と思わせるような人間関係を作ることが第一番です。例えば酒を飲みながら飯を食う、それは何も高い料理である必要はありません。安い肉と野菜を買ってきて、「一緒に食おうやないか。」と、一月に一度でもいいのです。自分の家族とご飯を食べるより、従業員とごはんを食べるのが楽しいくらいにならなければと思います。そうやって従業員を魅了するのです。飯で釣れというのではなくて、一生懸命そうすることで、「自分を大事にしてくれる。」という社長の人間性に従業員は心を打たれるのです。 ・・・・ (京セラ 稲盛和夫氏講演集より)

 かつての私のマネージャーは我々部下の話をよく聞いてくれました。仕事は毎日が問題解決の連続ですが、マネージャーは、「この観点からは解決できないのだろうか。」 と色々な見方を提示して私に考えさせました。解決策が見つかったときには自分のことのように一緒に喜んでくれました。一方では、マネージャーは上位の取締役に対しては、我々のためにと思うところをはっきり言っていました。このようなマネージャーの一生懸命な姿は、私に「この人のために仕事をしよう。」とまで思わせたのです。

 おそらく、究極のモチベーションは人間性、信頼性です。従業員を将棋の駒のように使っていたのでは、モチベーションは生まれることはありません。社長はもっと従業員を信頼していいのではないかと思います。こちらが信頼しなければ、相手も信頼しません。

 「 我々のリーダーは、自分を犠牲にして部下のために仕事をしてくれているのだ。」と従業員が認識すれば、従業員は自ら進んで「 リーダーのために仕事をするのだ。」という意識に変わるでしょう。しかし、「我々のリーダーは、私たちを犠牲にして、お金を儲けている。」となれば従業員のモチベーションは下がる一方でしょう。

 当時、全国の6割の学校の卒業式で歌われていたという定番曲 「旅立ちの日に」 の中に 「・・・・懐かしい友の声、ふと蘇(よみがえ)る、意味のない諍い(いさかい)に泣いたあの時、心通った嬉しさに抱き合った日よ、みんな過ぎたけれど、思い出強く抱いて、勇気を翼に込めて、希望の風に乗り、この広い大空に、夢を託して、今別れの時・・・・」という歌詞があります。中学生や高校生の頃、私たちが感じた「心が通う嬉しさ」を往時のものとせずに、今の社会人になってからも味わいたいと思います。

やめない社員研究所  原川 修一